超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

今昔物語

 押入れの奥から出てきたスケッチブックに、小さな掌のスケッチが描かれていた。
 確か当時小学生だった私が、自分の掌を見て描いたものだ。
 懐かしい気持ちで眺めていると、突然掌がスケッチブックからにゅっと飛び出てきて、私のおっぱいをわしづかみにして霧のように消えてしまった。
 一瞬の出来事だった。
 シャツに残された鉛筆の粉をはたき落としながら、せめて何か感想をくれよと思った。