超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

掌編集・十六「やさしさ、窓と卵、雨と野良猫」

【一.やさしさ】

 シャンプーを洗い流そうとシャワーの栓をひねったが、お湯が出ている音はするのに、お湯が頭に当たっている感じがしない。
 そっと目を開けると、誰かが私の頭上で傘をさしていた。


【二.窓と卵】

 昨日買った卵の一つに、小さな窓がついていることに気がついた。
 暗くてよく見えないが、何かが覗いているような気がする。
 とりあえず割ってみようとシンクの縁に向かって卵を構えた瞬間、手の中から窓をガラッと開ける音が聞こえてきた。
 いざ割ってみたら普通に黄身が出てきたので、念入りに混ぜて焼いて忘れることにした。


【三.雨と野良猫】

 とつぜん降り出した激しい雨の中、真っ白な野良猫たちが画材屋の前でニャアニャアやかましく鳴いていた。
 その日の夜、部活から帰ってきた息子がぶつぶつ文句を言いながら、三毛猫色に染まったスニーカーを洗っていた。