超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

掌編集・十五「象は賢い動物です、櫛、骨め」

【一.象は賢い動物です】

 象は賢い動物です。
 たとえばあの象を見てください。
 長い鼻でペンチを器用に操って、壊れた飼育員を自分で修理していますね。
 本当は飼育員がいなくても生きていけるのですが、飼育員の家族が泣いているのを見て修理することにしたようです。
 象は本当に賢い動物です。


【二.櫛】

 休み時間に、前の席に座っているクラスメートが櫛で髪をとかしていた。
 長い黒髪が輝きながらほどけていくのを何となく眺めていたら、突然そのクラスメートが怒ったような顔でこちらを振り返り、机に広げていた俺のノートを櫛でさっと撫でた。
 ノートに目をやると、さっきの授業の時に必死に書き写したノートの文字がすべてほどけて、ただの線になっていた。


【三.骨め】

 朝起きると体の内側からアイスクリームのにおいが漂っていた。
 まさかと思いお母さんに訊いてみたら、昨日の夜、私が眠った後に、私の骨が勝手に私を脱いで、冷蔵庫にとっておいたアイスを丸々一つ平らげたらしい。
 最近そんなことばっかりだ。
 この間はお姉ちゃんの香水を勝手につけられてえらい目に遭った。
 昔はあんなに仲良かったのに。
 骨め。