超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

掌編集・十四「入れ食い、きっかけ、転校生と綿」

【一.入れ食い】

 ご覧になりましたか、あの列車。
 すっかり齧り尽くされていましたね。
 あの山にトンネルを掘ったのがそもそもの間違いだったんですよ。
 私のおばあちゃんが言ってましたもん。
 アレはいつも腹を空かせているんだって。


【二.きっかけ】

 呑みこんだネズミが縫い目をほどいて逃げていったのを見て、初めて自分が本物の蛇じゃないことに気がついた。


【三.転校生と綿】

 転校生が教壇に立って自己紹介をしている。
 彼の手首の辺りがほころび、中から綿がはみ出ているのに気づいたのは、最前列の席に座っている私だけだった。
 気づかれないようにそっと手を伸ばして綿を抜くと、綿は少し温かくて湿っていた。

 その日の放課後、下駄箱で転校生に呼び止められた。
「……何?」
「……箸がうまく持てなくなるから、ああいうのやめてね」
 それだけ言って彼は帰ってしまった。
「……」
 何となくとっておいた綿は、駅のゴミ箱に捨てた。