【一.入れ食い】
ご覧になりましたか、あの列車。
すっかり齧り尽くされていましたね。
あの山にトンネルを掘ったのがそもそもの間違いだったんですよ。
私のおばあちゃんが言ってましたもん。
アレはいつも腹を空かせているんだって。
【二.きっかけ】
呑みこんだネズミが縫い目をほどいて逃げていったのを見て、初めて自分が本物の蛇じゃないことに気がついた。
【三.転校生と綿】
転校生が教壇に立って自己紹介をしている。
彼の手首の辺りがほころび、中から綿がはみ出ているのに気づいたのは、最前列の席に座っている私だけだった。
気づかれないようにそっと手を伸ばして綿を抜くと、綿は少し温かくて湿っていた。
*
その日の放課後、下駄箱で転校生に呼び止められた。
「……何?」
「……箸がうまく持てなくなるから、ああいうのやめてね」
それだけ言って彼は帰ってしまった。
「……」
何となくとっておいた綿は、駅のゴミ箱に捨てた。