超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ママと涙

 この前、妹が生まれた。
 パパはとても喜んでいる。
 パパは知らないみたいだ。
 この子はパパとママの子どもじゃない。
 ママが浮気していたのを私は知っている。
 ずいぶん前から、ママの様子が変だった。
 家事は全部済んだはずなのに、何かしら理由をつけて夜遅くまで台所にいる。
 どうも怪しいと思い、一度そっと台所を覗いてみたら、私は見たのだ。
 ママがいつもケーキやクッキーを焼いているオーブンの中に、裸のママがするすると吸い込まれていくのを。
 ベビーベッドでぐずる妹をあやしながら、妹の涙をそっと指で拭って舐めてみた。
 案の定、妹の涙はチーズケーキの味がした。
 馬鹿馬鹿しくて泣けてきた。
 頬を伝って流れる私の涙が、妹の口の中にぽたりと落ちた。
 妹がわっと泣き出した。
 ごめんね。
 セロリとトマトの味は、やっぱり赤ちゃんにはちょっと早いみたいだ。