超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

海と化石

 最近、浴槽の水を取り替えようと蓋を開けると、すっかり冷めたお湯の中を魚の背びれがうろちょろしていることが時々ある。
 このまま栓を抜いて排水管に詰まっても嫌なので浴槽の中をよく調べてみても、何もいない。
 水族館で働く夫に訊いてみると、ちょっと考えてから庭に出て、お風呂場の辺りの土を掘り始めた。
「何してんの?」
「まあまあ」
 30分くらい掘り続け、やがて小さな化石が出てきた。
「何それ?」
「大昔に絶滅したサメの化石」
 夫に詳しく話を聞くと、どうやら最近新しく使い始めた入浴剤の色が大昔の海の色に似ている、ということだったらしい。
 たぶん噛んだりはしないと思うと言うので、化石を埋め直して放っとくことにした。