超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

星と塩素(改訂)

 生徒が帰った後の夜のプールを片づけていたら、突然水面に何かがバシャンと落ちてきた。
 おそるおそる近づいてみると、何だか丸くて、柔らかく光っている。
 根拠はないが危ないものという感じはしなかった。拾い上げてみるとほんのり温かかった。
 一体これは何なのだと手の中でこねくり回しているうちに何かピンと来て夜空を見上げると、案の定いつもより星の数が少ないような感じがした。
 どうやら星の一つがうっかり落ちてきてしまったらしい。
 届くかどうかわからないがとりあえず夜空に向かって思い切り投げてみたら、星は吸い込まれるように夜空に戻っていった。
 大事にならなくてよかった。ほっとして家に帰った。

 あれから毎年この季節に夜空を見上げると、プールにいるわけでもないのに、ふいに塩素のにおいが鼻をつくことがある。
 最初のうちはただ懐かしいなぁと思うだけだったが、今はせめて水で洗ってあげればよかったと少しだけ申し訳なく思っている。