冬。
少女がこたつで蜜柑を剥いている。
彼女の傍らでは老猫が丸まっている。
テレビもラジオも沈黙し、部屋はひっそりと静まり返っている。
*
少女が蜜柑の一房を口に入れようとした時、老猫がふっと目覚め顔を上げる。
少女は老猫に目をやる。
老猫は立ち上がり、こたつに前足をかけにゃあにゃあ鳴き始める。
*
少女がこたつの上に視線を戻すと、そこには一組の目玉がふよふよと浮いている。
目玉はどこを見るでもなく、ただ何となく少女と彼女の手元の蜜柑とを交互に眺めている。
老猫は喉の奥から搾り出すような鳴き声をあげながら、目玉を興味深そうに見つめている。
少女はしばらく考えたあと、食べようとしていた一房の蜜柑を目玉の前に掲げ、それを指でぎゅっと絞り、目玉に向かって果汁を飛ばす。
目玉は驚いたようにじたばたと暴れ出す。
少女と猫はただそれを眺めている。
やがて目玉は少女に恨めし気な目線を送り、すっと消えてしまう。
*
少女は布巾でこたつの上を拭き、蜜柑を口に放り込んで、そして老猫は元の場所に戻って体を丸める。
少女がテレビを点ける。
賑やかな音楽が狭い部屋に響き、窓の外では雪が降り始める。