停電の暗闇の中でチョコレートをかじっていると、どこからか鼻歌が聴こえてきた。
知っているような知らないような声で、知っているような知らないようなクラシックの曲の同じ場所を延々と繰り返している。
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チョコレートをかじり続けていると、やがて歯に何かかたいものが当たった。チョコレートの中に入っている豆か何かだろうと思ったが、暗闇の中では確かめる術はなかった。
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何かわからないかたいそれといっしょにチョコレートを食べ進めるうちに、鼻歌が次第に小さくなっていくことに気づいた。
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少しずつ濃くなっていく静けさの中で、チョコレートを全部飲み込み、鼻歌がすっかり聞こえなくなったら、きっと電気が点く、そんなことを思ったが、そんな気がしただけで、チョコレートを飲み込み、鼻歌が聞こえなくなったあとも、電気はやっぱり点かなかった。
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停電の暗闇の中で、舌の上に残ったチョコレートの味をゆっくり味わっている時、さっきの鼻歌が、吹雪の中にかすかにちらつく人家の灯りのように、頭の中を何度も通りすぎていった。