超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

傘と骨

 夜、ペットの熱帯魚に餌をやっているとインターフォンが鳴った。来客が訪れてくるような時間帯ではない。足音を殺して玄関のドアの前に立ち、そっとドアスコープを覗いたが、暗くて何も見えなかった。

 仕方なくチェーンをかけおそるおそるドアを開けると、赤い傘を握りしめた不気味な女が目の前に突っ立っていた。本能的に危険を感じ、咄嗟にドアを閉めて鍵をかけた。夜の冷えた空気とともに流れ込んできた、何か生臭いにおいが鼻をついた。

 とにかく警察に連絡しようと震えながら携帯電話を取り出したその瞬間、背後の水槽からバシャバシャと魚が騒ぐ音が聞こえてきた。

 振り返ると水槽のふちに赤い傘が引っかかっていて、濁った水の中を熱帯魚の骨がゆらゆらと漂っていた。