超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

まだいる

 あの頃の話をする。

 

 

 その日も、団地に建つある一棟のマンション、その最上階のエレベーターの前に、私たちは集まっていた。

 私たちの間には、興奮と緊張がない交ぜになって漂っていた。

 私たちは四五人の子どもの集団で、その中の一人は鳥かごを抱えていた。

 鳥かごの中にはハトが一羽、閉じ込められていた。

 私たちが閉じ込めたのだ。

 

 

 その日も、私たちはエレベーターの前でしばらく黙って突っ立っていたが、やがて同級生の一人が痺れを切らし、勢いよく降下ボタンを押した。

 音もなく目の前の扉が開いた。

 すかさず別の一人が扉を押さえ、また別の一人が、手に持っていた鳥かごをエレベーターの真ん中に置き、そして1階行きのボタンを押した。

 扉を押さえていた同級生が、私たちに目配せをした。

 私たちは神妙にうなずいた。

 同級生が扉から手を離すと、扉はゆっくりと閉まった。

 

 

 その日も、私たちは一斉に駆け出した。

 そしてものすごい勢いで階段を駆け下りた。

 視界の隅には、そんな私たちと競争するように、途中で止まることもなく、スムーズに下へ下へと降りていくエレベーターの行き先表示ランプが映っていた。

 

 

 その日も、私たちは何とかひと足先に1階に着いた。

 私たちは息を整えながら、エレベーターの扉を熱心に見つめた。

 やがて、ガコン、と鈍い音がして、目の前の扉が開いた。

 私たちはおそるおそるエレベーターの中を覗いた。

 

 

 エレベーターの中には、鳥かごがぽつんと置かれていた。

 その日も、中に閉じ込められていたハトは、めちゃめちゃに食い荒らされていた。

 

 

 その日も、私たちは目を輝かせながら息を呑んだ。

「やっぱりすげえ」と誰かがつぶやき、皆がそれにうなずいた。

 わずかな沈黙の後、私たちは鳥かごを掴み、再び団地を飛び出していった。

 その日も、団地の裏の公園には、まだまだたくさんのハトがいたからだ。