超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ストロベリーフィールズ

 忘れられた庭の木に朽ちかけた鳥の巣があり、朽ちかけた鳥の巣は卵を一つ抱えており、卵には無数の小さな穴が開いていて、無数の小さな穴からは、目に見えないほど細い糸があちこちに伸びている。

 

 

 忘れられた庭の木の根元、朽ちかけた鳥の巣の真下に、死んだ蜻蛉をくわえた親鳥が転がっている。親鳥の体のあちこちには、目に見えないほど細い糸が張り巡らされている。

 巣の上で卵がかたかたと揺れる。揺れながら卵は糸を手繰り、親鳥を巣へと導く。巣へと導かれた親鳥は、ぎこちない動きで死んだ蜻蛉を卵のそばに置き、腐った肉と羽根にまみれたその体を巣に横たえ、そっとまぶたを閉じる。

 わずかな沈黙が過ぎ、ふたたび卵がかたかたと揺れる。親鳥はまぶたを開け、卵が孵るのを待ち望んでいるかのように、二度三度、翼で卵を優しく撫でる。目に見えないほど細い糸が一瞬日の光にきらめき、親鳥のまぶたが閉じられ、そして何も動かない時間が訪れる。

 

 

 忘れられた庭の前を、人々がさようならも言わずに通りすぎていく。