超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

砂場

 夕日に染まる公園の砂場で、子供が穴を掘っている。

 公園の出口辺りに設置されたスピーカーから童謡が流れている。

 砂の上に長い人影が現れて、子供の目の前に横たわる。

 子供は人影の主の方へ目をやる。

 しかし逆光で顔がわからない。

 

 

 子供は目の前の人影に視線を戻す。

 頭の影が、子供の掘った穴の中に納まっている。

 何気なく、子供は穴を埋めてみる。

 すると頭の影は、砂の中に埋まって見えなくなる。

 

 

 子供は首をかしげる。

 その時長い人影が、バイバイと手を振った。

 

 

 子供は人影の主の方へ目をやる。

 逆光で顔はわからないがしかし、人影の主もバイバイと手を振っている。

 子供はまぶしさに目を細めながら手を振り返す。

 人影の主は公園の出口に向かって歩き始める。

 

 

 子供の足元で妙な音がする。

 穴に埋まった頭の影と、砂場を離れていく体の影の間で、首の影が細く伸ばされ、ちぎれそうになっている。

 

 

 子供は慌てて穴を掘り返そうとする。

 しかし先に首の影の方がちぎれてしまう。

 子供の目の前で、頭のない人影が砂場を去っていく。

 

 

 子供は人影の主の方へ目をやる。

 しかしそこには何もいない。

 砂場の人影も消えている。

 

 

 子供は掘り返しかけた穴を再び埋めて、暗くなる前にそこを去る。