休日の子供部屋。
少女が机に向かって勉強している。
目の前の壁には写真が飾られている。
どこかの湖で撮った写真。少女と、その家族と、晴れた空と、湖。
*
勉強に疲れた少女が顔を上げると、窓の外に霧雨が降っている。
さっきまで晴れていたのに。
少女はため息をつき、手元のノートに目を戻す。
しかし何だか目の前の写真が気になる。
少女は再び顔を上げ、壁に架けられていた小さな額縁を外し、それを手に取る。
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少女と、その家族と、晴れた空と、湖。
何度も見たはずの写真だが、何か違和感を感じ、少女は目を凝らす。
湖の中心に、黒い人影が見える。
こんなものあったっけ。少女はさらに目を凝らす。
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よく見ると、黒い人影は細かく震えるように動いている。周りの水が激しく波打っている。
どうやら溺れているらしい。人影はばたばたと手を動かし、助けを求めている。
少女は額縁から写真を取り出す。
一瞬どぶみたいな臭いがした気がする。
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少女は水面に顔を出してもがく人影を見つめたまま、シャープペンを手に取る。シャープペンからは少しだけ芯が出ている。
少女はその少しだけ出ている芯の先を、人影に近づける。
黒い人影の黒い指が、シャープペンの芯の先を掴む。
少女は指先にかすかな重みを感じる。
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黒い人影はシャープペンの芯をよじのぼってくる。
少女は人影を見つめながら、眉間に皺を寄せて、シャープペンを何度も激しくノックする。
芯がみるみる伸びていき、人影はそれに押し込まれるようにして、湖の中に沈んでいく。ものすごい量の泡が湖面を揺らす。
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やがて嵐が段々と去っていくように、泡が少しずつ消えていく。
そして人影は見えなくなり、泡も途絶える。
少女と、その家族と、晴れた空と、湖。
何度も見た風景が写真の中に戻ってくる。
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少女はシャープペンをゆっくり引き上げる。
長く伸びた芯はすっかり濡れてしまっている。
これではノートは取れない。
少女は写真を額縁に戻し、芯をシャープペンに戻し、ふと顔を上げる。
霧雨はまだやまない。