超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

クローゼット

 家に帰ると、クローゼットが扉をばたばたさせながら何か歌を歌っていた。保安官バッヂをつけた象に踏み殺されたワニのギャングとかそんな歌だった。何だその歌。うるさかったので思いっきり蹴って黙らせた。

 翌日、クローゼットの扉を開けると、すべての服に歯型がつけられていた。

 だから燃やすことにした。

 クローゼットを庭に引っ張り出して、ついでに要らないモノ(詩や小説のようなものを長年書き溜めてきたノート)を中に放り込んで、火を点けた。木が乾いて弾ける音の中で、クローゼットはもがきながら(つまり扉をばたばたさせながら)歌を歌い続けていた。断末魔のかわりらしい。保安官バッヂをつけた象に絞め殺された猫の娼婦とかそんな歌だった。続きがあったのかよ。私はビールを飲みながらそれを眺めていた。

 やがてすべてが灰になった。後片付けをしていると、灰の中からノートが出てきた。しっかり燃やしたはずなのに、焼け残ったらしかった。

 ノートをつまみあげると、何かベトベトしたものに包まれていた。唾液だった。だから焼けなかったのだ。

 悪態をつきながら灰の山を蹴り飛ばした。自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。