超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

つばさ

 彼女の名だけが書かれた封筒が、私たちの住んでいるアパートに毎月送られてくる。封筒を開けると、中には数枚の羽根が入っている。

 封筒が届いた日の夜は、彼女といっしょに風呂に入る。彼女の背中のでこぼこした部分に、羽根を一枚ずつ挿していくのだ。

 彼女と暮らしはじめて四度目の春が過ぎようとしている。封筒が送られてくるようになったのは、二年目の初夏くらいだったと思う。この頃はだいぶ翼らしくなってきた。夜は横向きでないと寝られないので、ベッドが少し狭くなったが、その分彼女の寝顔をずっと眺めていられる。

 空を飛べるようになるまではもう少し時間がかかると思うが、彼女は最近天気のよい日に、例えば洗濯物を干すためだとか、プチトマトの鉢に水をやるために一緒にベランダに出ると、少しだけ空を眺め、それから申し訳なさそうな顔をこちらに向けるようになった。それは好きではないから、いつも文句を言いそうになる。しかしぐっとこらえて一緒に空を眺める。封筒は一応全部取ってある。そうすることに何の意味もないこともわかっている。