超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ゴンドラと私

 観覧車からゴンドラをもぎ取る母。果物籠いっぱいのゴンドラ。ゴンドラを軽く洗ってガラスの皿に盛り付ける母。中でまだ何かが暴れているゴンドラ。

 私の部屋のドアをノックする母。食べなさい栄養あるんだからと机に皿を置く母。いらないとは言えない私。スプーンと練乳を受け取る私。去っていく母。

 なるべく皿を見ないようにしながら練乳をたっぷりかける私。白いねばねばしたものに包み込まれるゴンドラ。中でまだ何かが暴れているゴンドラ。ゴンドラをスプーンですくって一思いに噛み砕く私。練乳の味しかしないゴンドラ。練乳の味しかしないことにほっとしている私。私の喉を滑り落ちていくゴンドラ。ゴンドラ。さっきまで中で何かが暴れていたゴンドラ。庭で洗濯物を干している母。私の中に満たされていく栄養。