超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

花と花

 看護婦が、眠り続ける患者のパジャマを脱がせる。患者の体には無数の花が咲いている。昨日の朝に摘み取ったばかりなのに、瑞々しい赤い花が、患者の体中に根を張って、甘い香りを放っている。

 この看護婦の仕事は、患者の体を拭くことだから、この花を綺麗に摘み取らなきゃいけない。今日は先輩もいないから一人で、カーテンを閉めきった暗い病室で、看護婦はゴム手袋をして、赤い花を丁寧に患者の胸から腹から股の付け根から摘み取っていく。ぬるぬるしたもののまとわりついた根が、患者の肌になめくじの這ったような跡を残す。看護婦は淡々と花を摘み取っては、それを患者の名前が書かれたビニール袋の中に入れていく。

 最後の一輪が患者の体から剥がれたとき、窓際の花瓶が看護婦の目に止まった。花瓶には何も活けられていなかった。

 看護婦はゆっくりと花瓶に近づき、患者の体から摘み取った赤い花を挿した。そしてそれを患者の枕元に飾ったとき、彼女は思わず吹き出した。その一連の行動が何だか可笑しかったのだ。その後彼女は交代の時間が来るまで、静かな病室で声を殺していつまでも笑っていた。