実家の押入れを整理していたら、古いスケッチブックが出てきた。表紙には私の名前が書かれているが、全然覚えがない。
何を描いたのだろう。
ページを開くと、草原にぽつんと建つ赤い屋根の小さな家の絵が現れた。「田」のかたちをした大きな窓と、花壇らしき物の上で揺れるチューリップが一つ二つ。我ながら実につまらない絵だ。
苦笑しながら一枚めくるとまた同じ絵が現れた。最初の絵と何ら変わらない。当時の私は何をしたかったのだろうか。
さらに一枚めくってみる。やはり同じような絵だった。しかし、少し変化が現れた。窓の隅に黒い汚れのようなものが見える。次のページに移ると、その汚れのようなものが窓の半分ほどまで広がっていた。
ページをめくるたびに黒い汚れの面積はどんどん大きくなり、スケッチブックの半分を過ぎた辺りでとうとう窓一面を覆い尽くしてしまった。
私はそこで一度スケッチブックを床に置き、目をマッサージした。実は、黒い汚れに満たされた窓を見た時から、頭の奥がちりちりしているのだ。
落ち着いてページをめくる。窓の中の黒い汚れが、緩やかに渦を巻きながら動いている。スケッチブックの三分の二を過ぎた辺りで窓ガラスが割れ、次のページではそこから黒煙と炎が噴き出した。
私はこの家のことを知っている。私の家じゃない。誰か人がいた。妙な臭いがする。
ゆっくりとページをめくりながら、頭の奥に、断片的な記憶がじわじわと滲み出てきた。
スケッチブックの中では、既に家は炎に包まれ、チューリップはとっくに灰になっている。
やがて私の指は、とうとう最後のページの手前まで辿りついてしまった。しかし私はいつまでもそれをめくることができない。ちょっと紙をつまんだだけで、その下から、じゃりじゃりする感触が指に伝わってくるのだ。