超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

ペンキの缶と肉の壁

 肉の壁が崩れた、と役所に電話が入った。私は上司といっしょにペンキを抱え、車で肉の壁に向かった。役所の駐車場の桜の樹は散りはじめていた。

 道が空いていたので、十五分ほどで肉の壁に着いた。さっそく調べてみると、なるほど季節柄肉の壁はところどころ腐りはじめていて、今年の春に私が描いた、小さな家と犬の絵の部分が崩れ落ちてしまっている。私は上司といっしょにブラシを持って、肉の壁の新鮮な部分に絵を描き直した。

 色々考えたが、変に凝っても仕方がないので、今日は花壇とチューリップと青空と大きな家を描くことにした。我ながら稚拙な絵だが、真剣に描いているとつい夢中になってしまうものである。ふと我に返り足元を見ると、腐った肉に集まってきた蝿の何匹かが、ペンキ缶の中で溺れて死んでいた。