超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

波打つ

 晩飯のあとにラジオを聴きながらコーヒーを飲んでいたら、とつぜん目の奥がじりじりと痛くなってきた。

 しばらく目を閉じてじっとしていたが、痛みは一向に引かない。仕方がないので、効くかどうかは知らないが、ひとまず頭痛用の薬を飲んでおくことにした。

 それでカップをテーブルの上に置いたのだが、強い力を込めたつもりもないのに、カップに注がれたコーヒーが大きく波打っている。その上ちっともその波が収まる気配がない。地震でも起きているのかと思って部屋を見回したが、カップの他に揺れている物は見当たらなかった。変な感じ、嫌な感じがするが、目の奥の痛みがますます激しくなってくるので、何はともあれ席を立って洗面所の戸棚に薬を取りに行った。コーヒーを飲んだばかりだが大丈夫だろうかとちょっと気にしつつ、洗面所の水で薬を飲んで元の部屋に戻ってみると、カップの中のコーヒーは、右に左に黒い塊を作っては崩しを繰り返しながら、さっきと変わらず波打っている。

 そのうち、とぷんとぷん、といういつもなら何でもないような音が次第に、ヒトの喉の奥で息が詰まっているような音に聞こえてきた。だからとにかく早く片付けてしまいたかったが、不用意にカップを持ち上げたら、コーヒーをぶちまけてしまいそうな気がして、なかなか手が出せなかった。そうこうしているうちに、目の前で神経に障るようなことが起きているせいなのか、目の奥が今までで一番ひどく痛み出した。やはりあの薬では駄目なのかもしれない。

 テーブルに突っ伏してぼんやりしていると、ふと、目の痛みのせいで視界がおかしくなっていて、それでコーヒーがいつまでも揺れているように感じるのかもしれないと思った。しかし、台所に行って別のカップに水を注ぎ、同じくらいの力加減で流し台に置いてみたのだが、ほとんど水は波打たないし、そのわずかな揺れもあっという間に収まってしまった。

 首を傾げながら部屋に戻ると、突然ばしゃん、と音がして、コーヒーがカップの中から噴水のように噴きだし、私の顔を濡らした。どうやら目の痛みのせいにしたことを怒っているらしかった。