超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

(一)

 

 ぽかんと口も目も開けて畳の上に転がる俺を見下ろしながら、彼女はおもむろに服を脱いだ。

 彼女のお世辞にも綺麗とは言い難いからだが、畳と俺と砂壁と、とにかく部屋の全部を染めている夕日の色に鈍く輝いていた。

 

(二)

 

 彼女は突っ立ったまま俺をじっと見つめて、何かを考えているようだったが、やがて口の端にふっと笑みを浮かべ、それからゆっくりと自分の首筋に手を伸ばした。彼女の白い首筋には小さな切れ目があった。彼女は切れ目をつまみ、スナック菓子の袋の口を切るように、自らの首を裂いた。

 彼女の頭が湿った畳の上にごろんと落ちた。彼女の首から甘い蜜がこぼれ出てきた。頭を失った彼女はぎこちなく、畳の上に転がる俺の周りをぐるぐる回りながら、首から溢れる甘い蜜を俺にたっぷりとかけはじめた。

 

(汚い畳と汚い俺が、一枚の皿といっぱしの菓子に見えてくる。)

 

 やがて蜜が尽きて、彼女の体はしわしわに萎み、その場に崩れ落ちた。

 入れ替わりに、そこらに転がっていた彼女の頭がむっくりと起きて、にこにこ笑いながら俺を足の方から齧りだした。

 

(俺は美味いかと尋ねる。彼女は何も答えない。)

 

(三)

 

 夕日はいっこうに沈まない。部屋はいつまでも眩しいままだ。ただ蜜にまみれた俺だけが、少しずつこの世から消えてなくなっていく。