超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

嘘つき

(毎朝、誰かのうめき声が聞こえて、目が覚める。)

 

 嘘つきめ。

 う、嘘つき、

 嘘つきめ。

 

(私の声だ。)

(突っ張った喉から、しわがれた私の声が、切れの悪い小便のように、ちょろちょろ、ちょろちょろと漏れているのだ。)

 

 嘘つき、

 うう嘘つき。

 嘘つきめ、

 

(思わず身をよじる。しかし、動けない。今朝もまた、昨日より、ベビーベッドが、狭くなっているのだ。)

 

 嘘つきめ……。

 

(うめき声はいつの間にか、嗚咽に変わっている。)

(お腹にかけられたひよこ色のタオルケットには、黴が生えている。)

(私は毛だらけの太い指で、枕もとの時計の針を、逆さに回す。)

(何も変わらない。)

 

(何も変わらないのだ。)

 

(嘘つきめ。)