(夕暮れ。公園の公衆トイレ。)
(疲れた顔の男が入ってくる。)
(墓石のように並んだ小便器の一番奥に人影が見える。)
(男は人影と離れた小便器の前に立つ。)
(人影は用を足しているふうでもなく、ただひたすら股間の辺りをもぞもぞといじっている。)
(男がちらりと横を見ると、人影の足元に、尋常じゃない量の綿埃が落ちている。)
(綿埃は人影の股間の辺りから音もなく落ちてきて、足元の山に次々と積み重なっていく。)
(人影は男の視線に気付いたらしい。ぴたりと手を止め、男に向かって決まり悪そうにつぶやく。)
どっかに、いっちゃったんだ。
(男は慌てて人影から視線を逸らす。)
参っちゃうよね。
(人影がにやりと笑ったような気がして、男ははっと自らの手元に目を落とす。しかしそれはきちんと男の指に挟まれてそこにある。)
大丈夫だよ。
(人影は男に向かって言う。)
そういうんじゃないから。
(男はファスナーを上げ、ばたばたとトイレをあとにする。)
(人影の足元に、綿埃が際限なく降り積もっていく。)