超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

友情と風船

(夕方のキッチン。エプロン姿の母親が、流し台の三角コーナーをじっと見つめている。)

(隣のリビングでは、幼稚園の制服を着た少年がふてくされた顔でテレビを眺めている。)

(母親が見つめる視線の先では、三角コーナーの残飯の隙間から、小さな小さな人間の腕が、助けを求めるように天に向かって伸びている。)

(母親は三角コーナーに目をやったまま、リビングに向かって声をかける。)

 

何したの?

 

(少年はふてくされたまま答える。)

 

絶交したの。

 

(母親はふと頭上に気配を感じる。見ると、台所の天井辺りを、残飯をあちこちにくっつけた小さな小さな赤い風船が、所在なさげにふわふわと漂っている。)