超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

機械を借りて

 ようやく順番が回ってきたので、死ぬことにした。親族や知人にその旨葉書を出し、役所から死ぬための機械を借りてきた。枕元に機械を置いてスイッチを入れると、無事に私は死ぬことになった。

 それはある穏やかな春の朝のことで、私の部屋には、かつて私が機械を借りてきて作った息子と、その息子が機械を借りてきて一緒になった嫁と、二人が機械を借りてきてこしらえた孫たちが勢ぞろいし、それぞれ機械を借りてきてしくしくと泣いていた。

 その声を聞きながら、借りてきた機械で振り返ってみれば、思い残したことは何もなく、割合に良い人生だったような気もする。ありがたいことだ。

 そんなことを考えていると、枕元に置いた死ぬための機械が、ブゥーンと低い音を発しはじめた。

 いよいよらしい。

 私は借りてきた機械によって集まった皆ににっこりと笑いかけ、借りてきた機械の指示に従って孫の頭を優しく撫でた。皆はそれを見てわっと泣き崩れた。皆がそれぞれに借りてきた機械のランプが、緑色に光っていた。万事首尾よく進んでいるようだ。

 死ぬための機械が軽快な音を立てて何やら動き始めた。私は目を閉じ、体の力を抜いた。そして、意識がなくなる直前に、こっそり借りてきてこっそり隠しておいた、生まれ変わるための機械のスイッチを入れた。これでいい。今度生まれてくるときは、機械に生まれてみたいと思う。合掌。