超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

林檎

(リビングのソファに私とあなたが座っている。)

(私は本を読み、あなたは誰かに手紙を書いている。)

(テーブルの上には真っ赤な林檎が置かれている。)

(不意に電話のベルが鳴る。)

(私とあなたは顔を見合わせる。)

(この家に電話は無い。)

(私とあなたは同時に気づく。)

(電話のベルは林檎から発せられている。)

(しばらく二人とも林檎を見つめている。)

(私があなたに目配せをする。あなたはペンを置き、おそるおそる林檎を手に取る。)

(あなたは手の中の林檎をまじまじと眺める。ベルは鳴り続けている。)

(あなたはついに林檎を齧る。)

(電話のベルが止む。)

(長い静寂の中で、あなたはゆっくりと林檎を咀嚼する。)

(あなたが林檎を飲み込んだのを見届けて、私は尋ねる。)

 

「……誰?」

 

(あなたはペンを握りなおしながら答える。)

 

「……間違い電話だって」