超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

大砲と寝癖

 丘の上に大砲が幾本も据え付けられている。

 砲手は忙しく働き、丘の先の村では、人が泣き、あちこちに火の手が上がっている。

 それぞれの砲手の傍には、幼い爆弾たちがきちんと整列し、発射のときを待っている。幼い爆弾たちは各々、ピカピカのスーツやドレスに身を包み、おしゃべりもせず泣きもせず、ただじっと目標を見つめ、砲身から次々にとび出していく。その様子を町の人々が、今朝も微笑ましく眺めている。

 私の町の、いつもの朝の風景である。

 

 私の近所に住んでいる爆弾も、その日その列に加わって、もじもじしながら順番を待っていた。普段は虫を追いかけたり、花の蜜を吸って美味い不味いと騒いでいるくせに、今日はやけに糊の利いたタキシードを着ておめかししている。しかしやはり慌てていたのか、右耳の上辺りに寝癖がついていて、それが何だかちぐはぐで可笑しかった。

 バスを待つ間、何とはなしに爆弾を眺めていると、あと二人と順番が近づいてきたときに、砲手の助手らしき若い女の子が駆けてきて、爆弾の寝癖を手櫛で整えはじめた。

 しかしなかなか頑固な寝癖で、どうもうまくいかなかったようだ、結局砲手が助手の女の子の肩を小突き、寝癖がついたままその爆弾は砲身に詰められ、丘の先の村へ発射された。

 頼りない曲線を描いて、爆弾は村の中央の井戸がある広場らしき場所に着弾し、爆発した。寝癖のせいなのか、その爆発の様子が何となく右に偏っていて、集まった町の人々がどっと笑った。

 そのときちょうどバスが来た。

 大砲の音を背中に聞きながら、仕事場に向かうバスの中、確かに可笑しかったが、しかしもうあれには会えないのだなと考えて、朝から少し胸が疲れた。