兄が家に恋人を連れてきた。海色の長いスカートを履いた、何だかぼんやりした顔の女だった。
兄が急かしたせいか、彼女は挨拶もそこそこに、兄とともに兄の部屋に入ってしまった。
頃合を見てお茶を持っていくと、兄の部屋いっぱいに海色のスカートが広がっていて、スカートの襞と襞の間で、兄が溺れていた。
助けようかとも思ったが、既に頭の先しか見えていない状態だったので、あきらめた。
次の瞬間、兄はとっぷりと海色のスカートに沈んでしまって、ぷつぷつと連なっていた小さな泡も、やがて途絶えた。女はただにこにこ笑っていた。しばらくすると兄の顔を描いた浮標がぷかりと浮かんできた。ふと見ると、海色のスカートのあちこちに、似たような浮標がいくつも漂っていた。
それから女はすと立ち上がり、お盆の上のお茶を一口すすって、にこにこ笑いながら部屋を出ていった。