超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

薔薇と心臓の日

 よく晴れた午後、医者が写真を見せてくれた。

 私の心臓に、薔薇が蔦を絡ませていた。瑞々しい棘が小さな心臓に、いくつもいくつもいくつも食い込んでいた。

 何も言えないので何も言わないでいると、医者も何も言えないと見えて、何も言わないで去っていった。

 

 よく晴れたその日の夕暮れ、見舞いに来た妻に薔薇と心臓の写真を見せた。

 妻はしばらく、むむと唸った後、私の肩をぱしんと叩き、きっと造花よこんなもの造花よだからだから大丈夫よ、ととんちんかんなことを言い出した。

 それで私は大きな声で笑った。