超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

月と夕餉

 逃げ遅れた私の一人ぼっちの夕餉を、窓の外遥か遠く、真ん丸の月が黄色く汚い歯を剥いてあざ笑っている。夜空の星が見えないくらいたくさんのロケットが、次々と宇宙へとび出していく。
 私は月から目を逸らし、スプーンを手に取る。テーブルの上のスープが優しい湯気を立てている。

 逃げ遅れた私の一人ぼっちの寝床を、窓の外遥か遠く、真ん丸の月が醜くただれた舌を出しげらげら笑っている。最後のロケットが地球から飛び立ち、夜空に星が戻ってくる。
 私は月から目を逸らし、日記帳を閉じる。遠くから地響きと熱が近づいてくる。枕元に置いた家族の写真がぱたりと倒れる。

 逃げ遅れた私の一人ぼっちが終わる。