超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

繁殖と殺菌

 レトルトの青空を温めていたら、漂う春のにおいに誘われて、痩せっぽちの芋虫が、窓の外にやってきた。

 芋虫は懇願するような目つきで、窓をこつこつと頭で叩いた。中に入れてほしいらしい。ちょっとかわいそうにも思ったが、窓を開けて、部屋に腐った空気が入ってくるのも嫌だったので、無視することにした。

 そのうち痩せっぽちの鳥がやってきて、痩せっぽちの芋虫をくわえて、濁った雲に覆われた空の彼方へ飛んでいってしまった。ちらりと見ると、痩せっぽちの芋虫は、膿みたいな涙を流しながら私を睨んでいた。

 そのときちょうどキッチンタイマーが鳴ったので、火を止め、袋の口を切り、レトルトの青空を部屋いっぱいに広げて、思い切り息を吸い込んだ。春のにおいが体いっぱいに染み渡る。余生の貴重な一日を、今日も素敵に演出することができて、よかった。