超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

掌編集・四

(一)

 

 庭で苺の詩を摘んだ。

 ジャムにした。不味かった。

 私の庭には、本物の苺はまだ一度も実ったことがない。うんざりしている。

 

 

(二)

 

 金魚鉢に、小さな浮き輪と、小さな靴が浮いていた。金魚はその日かなりの量の餌を残した。

 しかし金魚はしれっとした顔をしているし、元気そうなので、とりあえず忘れることにした。

 

 

(三)

 

 水族館の、いちばんおおきな水槽の、底の底の底の、隅っこに、布団が敷いてあって、掛け布団の下には何かいるらしく、もっこりもぞもぞしている。

 布団の周りには、蝿が飛び回っていて、そうなるとあの何かは、死んでいるのかもしれない。

 そうすると、もぞもぞしているのは、目の錯覚なのかもしれない。

 

 

(四)

 

 雨の路地で、小さな肉片を拾った。薄桃色の湿った塊だ。

 拾い上げて、掌の上で軽く転がしているうち、すっかりなつかれてしまった。

 持ち帰って机の上で飼うことにした。

 ミルクを温めながら、耳掻きのぼわぼわしたやつで撫でていると、この小さな肉片は、様々な声で鳴くことがわかった。友だちができた気持ちだった。

 嬉しくなって、観察日記をつけることにした。ノートの最初のページには、この小さな肉片は、放っておくと、庭の花壇や花瓶の中で、気持ちよさそうに花にくるまれて寝ているので、この小さな肉片は、たぶん元は鼻だったんだろうと、思う。と書いた。