超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

骨と剥製

 外国で暮らす友人から、巨大な獣の剥製が届いた。
 剥製には手紙が添えられていて「実はこの獣に食べられてしまいそうなので、私ごと剥製にしてもらうことにしました。かしこ。」と書かれてあった。それは確かに友人の字だった。唐突に外国で暮らしはじめた友人は、唐突に帰ってきた。
 針のような毛に覆われた巨大な獣の剥製は、獣のにおいと、友人の髪のにおいが混じりあった、不思議なにおいを漂わせていた。友人を捉えた若々しい瞳、友人を噛んだ白い牙、友人を飲み込んだ逞しい喉を経て、おなかの辺りがなるほどぽっこりと膨らんでいる。触るとほのかにあったかい。よく見るとジッパーが付いていて、開けると中からつるんときれいな頭蓋骨が出てきた。友人の大きな目と広いおでこの面影が何となく残っているような気がした。

 それから私は頭蓋骨をかぶって、当てもなく夜の町に原付を走らせた。すれ違う人も車もなくて、原付のエンジン音とサイズの合わない頭蓋骨のカタカタする音だけが静かな町に響いていた。
 ふと思い立って、友人が昔バイトしていたコンビニに寄ってアイスを買い、コンビニの裏の公園でいっしょに星を眺めた。話したいことはたくさんあったが、別に一つもないような気もして、結局二人とも黙っていた。
 夜も更けてきた頃、適当な場所に穴を掘り友人の頭蓋骨をそこに埋めた。アイスの棒を墓標がわりに土に刺し、「じゃあね」と原付に跨ったとき、土の中から「アイス当たってるよ」と友人の声が聞こえた。
 目をこらすと確かに墓標は当たり棒だった。しかし私はつい格好つけて「あんたにやるよ」と答えて、家に帰ってきてしまった。寝るときに、やっぱり持ち帰ればよかったとちょっとだけ後悔した。

 朝起きて巨大な獣の剥製の前に立ったら、友人の髪のにおいはすっかり消えていた。鼻の奥がつんとした。