超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

犬と泥棒

 長い雨が降った次の日、庭の隅に水たまりが現れた。鏡のように美しい、傷ひとつないその水面を、庭で飼っている飼い犬が興味深そうに覗き込んでいる。

 洗濯物を干しながらその様子を眺めていると、とつぜん水たまりの中から、女らしい腕が出てきて飼い犬をゆっくり撫ではじめた。

 びっくりしたが飼い犬もまんざらでもない様子なので、そのままにしておいたら、撫でられるにつれ段々と、犬が小さくなっていることに気づいた。

 慌てて洗濯物を放り出して水たまりに近づくと、水面に映った向こう側の飼い犬があべこべに、段々と大きくなっていく。あっと思ったときには犬はすでに撫で尽くされ、すっかり水たまりの向こうへ行ってしまった。飼い犬の名を叫びながら、水たまりに思い切り腕を突っ込んだが、柔らかい土が沈んでいるだけだった。