超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

フキダシと卵

 丘の上の大きな木の下で、娘と昼寝をしていたら、木に巣を構えていた黄色い鳥が卵を産んで、それが娘のフキダシの中に落っこちてきた。

 その時娘は寝言も漏らさず、フキダシの中は空っぽだったから、鳥の卵は娘のフキダシに居座る形となった。

 目覚めてからそのことに気づいた娘は、嫌がるどころか卵を孵すつもりになったらしく、自分の言葉が卵を傷つけてはいけないと、その日から一言も喋らずにいて、昼間はずっと、日当たりの良い場所でじっと黙っている。

 今のところ卵は時々、フキダシの中でかすかに動いたりしているだけで、孵化する気配はないが、娘は卵に少しでも何か動きがあると、それを私の携帯のカメラで撮影したりしている。そんな時娘がちらりと見せる母親っぽい顔を、旦那は何だか知らないが不機嫌な目で見ている。