婚姻届をもらいに役場に行くと、ロビーの売店で、私たちが滅ぼした国の太陽の欠片が、瓶に詰められて売られていた。
そういえば今日は朝から、ほくほく顔の兵隊が、街道をパレードしていたのを思い出し、記念に一つ買っていくことにした。
私たちが滅ぼした国の太陽の欠片は、口の大きな瓶の中を、所在なさげにふよふよと漂っている。
ふと思い立ち、中学の卒業アルバムを開いて、担任だった男に電話をかけた。彼は確か私たちが卒業した後、隣町の学校に転勤したはずで、その隣町は数年後に、このほど私たちが滅ぼした国として独立したはずだ。
曖昧な記憶と知識を手繰りながら、呼び出し音を聞いていると、留守番電話のアナウンスが流れた。思いつきの電話だったから、特に残したい用件もなかったので、当たり障りのない挨拶と、太陽の欠片を買ったことだけ吹き込んで、受話器を置いた。
夜、婚約相手の股間をまさぐっていたら、電話のベルが鳴った。出てみると昼間留守電を残した担任の男で、私が反射的に、当たり障りのない挨拶を繰り返そうとすると、彼はそれを遮り、何だかひどく疲れたような、あらゆる安息にあらがっているような強い声で、「それはどんなにおいがする?」と尋ねてきた。
それで仕方なく、婚約相手の股間をまさぐっていない方の手で、瓶の蓋を開け、太陽の欠片のにおいを嗅いだ。
それから受話器の向こうで息を殺す彼に、土と草と乳のにおいがします、と伝えると、彼はほっとしたように鼻息で受話器を震わせ、がちゃりと電話を切ってしまった。その夜私は、婚約相手の尻を撫でながら、彼に結婚式の案内を送るべきか、しばらく迷っていた。