超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

青空と空白

 青空をさらって、身代金を要求したが、いつまで待っても誰も迎えに来ない。

 はじめ気丈にふるまっていた青空も、三日が過ぎる頃には、うつむいて、鼻をすすり、眼差しは放心していた。肩を抱いて慰めてやりたかったが、肩がどこにあるのかわからない。

 五日目、しくしくという嗚咽とともに、青空の中に雨雲が集まってきて、監禁している部屋の、薄汚い畳の上に、ぺたぺた雨が降ってきた。濃い水のにおいと汗のにおいがまざって、妙な気分になってきたので、思わず窓を開けると、当たり前の話だが、窓の外の、人々の頭の上には何もなかった。

 しかしそれでも人々は、働いたり歌ったり、抱き合って嘘をついたり、他の人々の陰口を言ったりするのに忙しいらしく、青空がさらわれたことにも、気づいていなかった。

 ただ鳥だけが怪訝そうな顔をして、羽をたたみ、木の枝の間に身を潜めていた。