トモコとマリコ

超短編を中心とした短い読み物を発表しています。

皮膚と風(let it be)

 三階建てマンションの屋上に象がいて、飛び降り自殺をしたがっていた。その象の背中の上が、この町で一番高い場所だった。
 幼い頃、僕は妹と象の背中にのぼり、遠くの山に、勝手な名前をつけて遊んでいた。

 ある日とうとう象は屋上から飛び降りて、僕らの遊び場は無くなってしまった。
 花壇と自転車置き場の間、雨のにおうコンクリートの褥に、象は冷たくなって、横たわっていた。
 僕は泣いたが、妹は象の銀色のまぶたに手をかざし、目を閉じさせてやっていた。
 あれだけ熱中して考えた山の名前も、今ではもうすっかり忘れてしまった。

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