超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

夜と鏡

 夜、ふいに目が覚めた。

 妹の夢を見た。幼い頃に死に別れた妹の夢を見た。もう長い間忘れていたのに、突然そんな夢を見た。

 引き出しを開け、奥からアルバムを取り出す。幼い頃の妹と私が並んでにこにこ笑っている。写真を手に取り、眺めているうち、急に涙が溢れてきて、写真を見たことを後悔し始めた。

 思わず写真をぐしゃぐしゃに丸め、床に放り投げた。

 そのまま寝てしまおうと思った。しかしなかなか寝付けなかった。

 そのうち何だかカサカサ聞こえてきたので、音のする方に目をやると、丸めた写真がひとりでに開いていた。

 慌てて写真を見ると、さっきまで笑っていた妹が悲しそうな顔をしていた。だから精一杯写真の中の妹に向かって、おどけてみせた。必死に笑わせようとしたのだけれど、うまくいかなかった。

 

 朝、いつものように化粧をしようと鏡台の前に座ると、どこからか女の泣く声がした。

 不気味に思いながら鏡台の扉を開けると、鏡の中に、知らない部屋が映っていた。

 突然の出来事に体が固まってしまった。

 昨日夜中までホラー映画のDVDを観ていたことを猛烈に後悔し始めた。警察を呼ぼうかと思ったが、いやこの場合警察が何の役に立つんだと思い直した。うろ覚えのお経を思い出そうとした。

 そんなことをぐちゃぐちゃ考えていると、鏡の中に、ふいに女の顔が現れた。

 それは、幼い頃に死に別れた姉だった。

 頭が真っ白になった。怖い、という感情は吹き飛び、ただただ寂しくなった。

 姉と私はしばらく見つめ合っていた。

 すると姉が泣きながら、いないいないばあ、とか、べろべろばあ、とか、必死におどけた顔をし始めた。そこで私は初めて、自分がとても悲しそうな顔をしていることに気づいた。

 今すぐここから逃げ出して、声を上げて泣きたかったが、きっと今ここを離れたら、二度と姉には会えないだろうという気がした。姉は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、私をあやしている。だから鏡の向こうの姉に笑おうとしたのだけれど、うまくいかなかった。