超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

雨と毒蛙

 私の住んでいるアパートの共同トイレには、毒蛙の幽霊が出る。昼夜問わず窓枠に陣取り、怒ったように頬を膨らませている。誰かに踏まれて死んだのか、背中には靴底の跡らしきものが残り、口からはちょっと内臓らしきものが飛び出ている。悪さをするわけではないので放っておかれているが、いちおう毒蛙なので用心はしている。
 毒蛙の幽霊の周りには、いつも見えない雨が降っていて、トイレで煙草を吸っているときに近くをぴょんぴょん跳ねられると、じゅっと音がして火が消えてしまう。そういうときは仕方なくトイレを出て煙草を吸う。すると決まって毒蛙の幽霊が、勝ち誇ったような顔でけろけろ鳴くのが腹立たしい。しかし、雨に反応するものとそうでないものがあるらしく、煙草の火は消えても、私自身の服や髪は濡れないのはありがたい。毒蛙の幽霊の周りに降る雨は、乾いた血のにおいがして少し不気味だからだ。
 毒蛙の幽霊は、ときどき郵便受けの中にも現れる。私の部屋の郵便受けの扉を開けると、澄ました顔で手紙の山の上に座っている。しっし、と追い払い、手紙を手に取る。すると、雨に濡れた手紙と、そうでない手紙があることに気づく。雨に濡れた手紙には、いつもろくなことが書かれていない。