超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

羽と覗き穴

 自販機で蝶が売られていた。大きいのから小さいのまで、一つ一つ色とりどりの風船に閉じ込められて、ずらりと並べられている。一番安い、くすんだ貝殻のような色をした蝶を買って、部屋に帰った。

 風船を針でつついて蝶を放す。しばらく部屋の中をゆらゆら飛び回る蝶を眺めていたが、ふと、蝶の羽に丸い穴が開いているのに気づいた。そっと蝶を捕まえてよく見てみると、穴の向こうに誰かいる。虫眼鏡で穴の中を覗くと、死んだ母親が椅子に腰掛けて笑っているのが見えた。思わず声をかけてみたが、反応はない。穴からは、かすかに実家の風呂のにおいが漂ってくる。

 しかし、懐かしいやら切ないやらで、とにかく穴の向こうにいる母親に気づいてもらおうと色々思案しているうちに、母親の様子にふいに違和感を覚えた。そこでティッシュで細いこよりを作り、穴の中に突っ込んで母親をつつくと、それがダッチワイフに服を着せて、顔に母親の写真を貼り付けているだけのものだとわかった。

 虫眼鏡を放り、ため息をつく。がっかりだ。安い蝶を買ったからかもしれない。すっかり意気消沈して窓を開け、蝶を外へ放すと、あっという間に鳥に食われて死んだ。