2013-09-05 自販機とつよい子 クミコからきいた話 薄暗い路地の一角にある、「つよい子」というラベルの貼られた自販機の前で、母さんが目に涙をいっぱいに溜めてじっと佇んでいる。 真新しい丸いボタンの上のガラス窓の向こうには白い霧が満ちていて、その中で、黒い、小さな影たちが蠢いている。影は四方に散りながら時々さっと集まって、掌や顔のようなかたちになってまたさっと散る。 その様子を何とも言われない顔で見つめる母さんの目元の滴に、自販機の強い光がいくつも反射してちろちろとせわしなく動くのを、私は遠くから見つめることしかできない。