超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

画鋲と夏空

 部活のとちゅうで腹が痛くなり、もう何十分も学校のトイレにこもっている。隅の個室にいるので、ふと見上げた窓から一面の夏空が見えて、それで少しは気が紛れるかと思ったが、腹はどんどん痛くなる一方だった。

 脂汗が額に浮かぶ。祈るような気持ちで、といっても何に祈っているのかはわからないけれど、とりあえず窓の外の青空を仰いだ。僕の腹痛なんてどこ吹く風で、空には小鳥が舞い、雲はゆっくりと流れていた。

 すると、ふいに何か黒い小さな物が、空から落ちてきて、窓枠に当たり、カツンとかわいげな音を立てた。足元に転がってきたそれを拾いあげると、画鋲だった。

 何だこれはと思っていると、ガサリと重い音がして、反射的に音の方を見ると、窓の外に広がっていたはずの夏空の端がぺろりとめくれて、向こう側がわずかに見えていた。

 と、いきなり個室のドアがノックされた。トイレに入ってきたらしい足音などは聞こえなかった。

 腹痛が嘘のようにおさまった。しかしもはや腹痛どころではない。このノックは何が目的なのだろうか。そう考えている間に、ノックの音はどんどん激しくなっていく。