超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

かき氷としっぽ

 お父さん、どうしたの、会社は?

 なぁ、あの、うち、あれなかったっけ、かき氷作るやつ。

 え?

 あるじゃん、手回しでさ、氷ガリガリ削るやつ。

 あ、あー、はいはい、あるけど、何?

 貸して。

 え、今?

 うん、ここで使ってすぐ返す。

 何それ?

 いいから。

 ああ、そう。

 

(居間に上がった父は、とつぜんズボンを脱ぐ。)

 な、何?

 これ見てよ。

(父の尻からちっちゃなイルカの尾ビレが生えている。)

 どうしたのこれ。

 わかんない、わかんないけど、恥ずかしいんだ。

 かわいいじゃん。

 お前、そんな、いや、こんなの恥ずかしいよ。いいから、かき氷のやつ、ほら。

 ああ、はいはい、これだけど。

 

(父はしっぽの先端をかき氷器にセットする。)

 え、マジで?

(父は何の躊躇いもなく尾ビレをガリガリ削っていく。)

 うわ、ちょっと、え、痛くない?

 ぜんぜん。

 うそ?

 

(父は尾ビレを削り続ける。)

 全然削れてないじゃん。

 削れてるって、ほら。

(かき氷器の受け皿にずたずたになった尾ビレが山になっている。)

 生えてくるんだ、削ったそばから。

 はー。

 

(ガリガリという音だけが居間に響く。やがて父は飽きてきて、片手で携帯をいじり始める。)

 余裕あるね。

(父、携帯から顔を上げず。)

 いや、必死だよ。

 はー。