超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

茶碗と暁

 夜の闇が濃くなると、私は屋根に上がり、夜空を茶碗ですくって、それから一気に飲み込む。とても不味い。一応鼻をつまんではいるが何の意味もない。そういう次元の不味さではない。飲み込むたびに、胃と胸がチョコレートフォンデュのように肥溜めに浸されるイメージが浮かぶ。やたら厚みのあるげっぷが喉をイガイガさせながら逆流してきて、そのにおいを嗅ぐと鼻の穴から脳が噴き出す。やがて茶碗を持つ手が震え出し、首筋は汗と涙でびしょびしょになる。尿なんてとっくの昔に漏らしてる。しかし、夜を飲み干さないと朝はやってこない。だからやめるわけにはいかない。仕事は仕事だ。まぶたをぎゅっと閉じ、気合いを入れ直す。ふと見ると、まだ飲まない夜の内で、恋人たちが語らったり、互いの耳を舐め合ったりしている。