超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

夜風とまぶた

 ある晩、部屋の電気を点けたまま寝てしまった。そしたら嫌な夢を見た。うなされていると、やがて妙な音がしてふと目が覚めた。周りの景色がちかちかしていた。蛍光灯が切れかけているのだと思い、ベッドに身を沈めたまま天井を見た。蛍光灯の輪の中を、長い髪の毛をひきずった何かがぐるぐる歩き回っていた。妙な音は髪の毛が、蛍光灯の内側に擦れる音だったらしい。とても早いスピードで輪の中を回るので、影が光を遮るたびに、光がパトランプのような動き方をした。よく見ると、蛍光灯にかじられた跡があって、そこに穴が開いていた。どうやらそこから入ったらしい。怖くなってもう一度寝てしまおうとしたが、なぜか目を閉じることができなかった。それどころか、金縛りに遭ったように体が動かなかった。目の端で、窓の外の夜が濃くなっていくのがわかった。どこからか冷たい風が吹き込んできて、むき出しの目玉にがらんがらんと当たって砕けた。そこではじめて、まぶたがかじり取られていることに気がついた。