超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

舌と蜜

 熱した蜜のような夕日が部屋に流れ込んできた。じっとしていると自分がその蜜の中に閉じ込められていくような気持ちがした。
 すると、げんげん、というような荒い手触りの風が窓の外を通り過ぎた。何事だろうと思い、窓の方に向こうとしたが体が動かなかった。視線の先で、いつの間にか部屋に入り込んでいたらしい小さな羽虫が、空中で固まっていた。雨漏りの水も床に半身を砕かれて、冠のような花のような中途半端な形のまま動かなかった。
 そうしていたらまた風がげんげん、と鳴り、とつぜん部屋がめちゃくちゃに回転し、その拍子に壁と天井が剥がれた。透き通るような青空が目の前に広がった。それから私や羽虫やそのほか部屋の中の色々を閉じ込めたまま、四角く固まった蜜の塊は、猛烈な勢いで巨大な舌の上に落ちていった。