超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

水槽と白い砂

 色の白い女を殺してしまった。だらりと飛び出た舌に爪の跡が残っていて、そこに血が溜まっていた。
 死体を見ていたくなくて、部屋を出ようとすると、部屋の隅の水槽に敷き詰められた白い砂がもこもこと膨れて、そこから今しがた殺した女が現れた。女はしばらく泳ぎ回ったあと、疲れた様子で水から上がり、水槽の縁に腰掛けた。それから掌で水をすくって、舌を洗った。肘を伝う水が少し赤く染まっていた。私が思わず目を逸らすと、もう女はいなくなっていた。水槽の水からは、女が使っていた安い石鹸の香りが漂っていた。
 そのあとその水槽で、丸い体の中に星の形のあるくらげを飼って、これはずいぶん長生きした。