超短編小説 トモコとマリコ

超短編小説を中心とした短い読み物を発表しています。

モザイクと猫

 学校から帰ってきた息子の顔に、モザイクがかかっていた。クラスで何かあったのかもしれない。ピンセットと消毒液で湿らせた綿棒をつかって一つ一つモザイクを剥がし、さりげなく事情を聞こうとしたが、剥がし終わらないうちからペラペラ喋るもんだから、言葉が不明瞭で、息子が何を言っているのかわからなかった。
 やっとすべてのモザイクが剥がれた頃には、息子はすべて話しましたからね、というような憎たらしい顔をしてそれ以上は口をつぐんでしまった。
 玄関に散らばった、鱗のようなモザイクをちりとりに集め、そのままゴミ収集所に捨てに行くと、猫が喧嘩していた。白い猫と、毛のもさもさした黒い猫で、黒い猫の額からは血が出ていた。
 家に戻るとポストに手紙が入っていた。実家の母からで、内容は金の無心だった。切手が貼られていないからまだ近くにいるのかもしれない。手紙を破いて再びゴミ収集所に行くと、ぐちゃぐちゃになったゴミ袋を残して猫の喧嘩は終わっていた。
 もさもさした黒い猫には既にモザイクがかけられ、ぴくりとも動かなかったが、腹を軽く蹴るとびっくりしたような声をあげて、一目散に逃げていった。